研究室紹介

はじめに

薬物治療学分野では現在のストレス社会の中で患者が多く認められる精神神経疾患に着目し、疾患病態の発症機序、適正な医薬品の使用および新たな効能の開発の研究を通じて社会に貢献しています。
厚生労働省は2013年まで我が国の地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として指定してきた「がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病」の4大疾病に、新たに「精神疾患」を加えて「5大疾病」となりました。これは、社会や職場でのうつ病や高齢化に伴う認知症の患者数が年々増加し、国民に広く関わる疾患として判断されたためです。患者数は約400万人を超え、糖尿病の役300万人より多い。すなわち、患者数からは最も気をつけるべき疾患であるが、その原因が中枢神経系にあることより、病態の解明や新たな治療薬の開発はまだまだ未知な部分が多いのが現状です。
私たちの研究室では、精神疾患で苦しんでいる患者さんのために病態解明研究、創薬研究を通じて貢献していきます。

教授 北村 佳久

現在、進行中の研究テーマ

  1. 抗がん剤投与による精神機能変化に関する病態解明および治療薬の創薬研究
    がん患者は常に精神的ストレスに曝されている。そのため、一部のがん患者はうつ病、適応障害、不安障害等の精神疾患を合併している。一方、抗がん剤(化学療法)は中枢神経系に影響する可能性がある。そこで、抗がん剤投与ラットで検討した結果、不安様行動を示すことを明らかにした。この不安行動には選択的セロトニン再取り込み阻害薬は無効であることも明らかにした。現在、病態像の解明および有効な治療薬の創薬研究を展開している。
  2. 全身および脳内炎症による精神機能に変化関する病態解明および治療薬の創薬研究
    炎症が精神機能に影響を与えることが知られている。中でも、術後に必発するせん妄はよく知られており、この術後せん妄に対してベンゾジアゼピン系睡眠薬はせん妄発症のハイリスク薬として知られている。LPS(リポポリサッカライド)投与マウスでは不安様行動が発現することを明らかにした。さらに、炎症モデルマウスでは代表的ベンゾジアゼピン系抗不安薬である抗不安効果は逆に不安誘発作用を示すことを世界で初めて明らかにした。現在、全身炎症とGABA神経系の関りに関して研究を行っている。
  3. うつ病および治療抵抗性うつ病の病態解明および次世代抗うつ薬の創薬研究
    うつ病患者の約3割は既存の抗うつ薬で改善をみない、「治療抵抗性うつ病」であることが知られている。そこで、治療抵抗性うつ病の動物モデルとしてACTH反復投与モデルを開発した。その結果、本モデルは既存抗うつ薬の抗うつ効果が消失し、その原因としてセロトニン神経系の異常ならびに脳由来神経栄養因子の発現量低下を明らかにしている。本モデルを用いて有効な薬剤の創薬を行っている。
  4. 薬剤師ががん患者とコミュニケーション時に苦慮する点に関する研究
    現在、薬剤師はがん患者に対して服薬指導等で接することが多い。その際、がん患者に対して苦慮することを多く経験している。その要因に関して半構造化面談法および質問紙票を用いて解析を行っている。そこで、薬剤師の職能を超えた質問(患者の生死等)をされた場合の対応に苦慮していることが明らかとなった。現在、その成果を基にがん患者に対して有効なコミュニケーションスキル法の確立を目指している。
  5. 肺高血圧症の新規バイオマーカーおよび治療標的因子の探索
    肺高血圧症は、肺動脈特異的な閉塞病変により、右心不全に至る難治性疾患である。特異的な自覚症状やバイオマーカーが存在しないため診断が難しく、既存の治療薬による効果も限定的である。本研究では、肺高血圧症患者由来の血液サンプル、肺血管構成細胞、肺組織を用いて、肺に局在して炎症を惹起する受容体タンパク質とそのリガンドや、その他生体内因子に着目し、肺高血圧症の重症度に相関する新規バイオマーカー及び新規治療標的因子となり得るかを分子生物学的な実験手法を用いて明らかにする事を目的としている。
  6. 肢関節置換術後の新規経口抗凝固薬edoxabanによる術後貧血のリスク因子の影響
    下肢関節置換術後の術後貧血は、感染症や治癒遅延、更には入院期間の延長や退院後のQOLの低下等、様々な影響を与える事が報告されている.そのような中、術後の静脈血栓塞栓症の発症予防で使用されるedoxabanが術後貧血の頻度を増加させることが報告されているものの、未だそのリスク因子は明らかにされていない.本研究では、臨床情報を用いて、edoxabanによる術後貧血の頻度及び血液凝固能に与える影響やそのリスク因子について明らかにする事を目的としている。